KPI設計でビジネスは変わる。ウェブ解析の専門家が語る、成果に繋がる指標の作り方

「マーケティング施策を色々試しているのに、いまひとつ手応えがない…」

「会議で並ぶ数字は、本当にビジネスの『今』を正しく映しているのだろうか?」

もしあなたが、日々の業務の中でこうしたモヤモヤを感じているなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。私は20年間、ウェブ解析のアナリストとして、EC、メディア、BtoBと、様々な業界のビジネス課題と向き合ってきました。その中で痛感してきたのは、多くの停滞や混乱の原因が、「KPI設計」という、航海の出発点にあるということです。

KPI設計は、単なる数値目標 設定ではありません。それは、あなたのビジネスという船が、どこへ向かうべきかを示す「羅針盤」であり、チーム全員が同じ地図を共有するための「共通言語」です。そして何より、私たちが創業以来信じ続けている「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学を、ビジネスの力に変えるための最初のステップなのです。

この記事では、小手先のテクニックではなく、ビジネスの根幹を強くするKPI設計の本質について、私の経験を交えながらお話しします。さあ、あなたのビジネスの羅針盤を、一緒に見つめ直してみませんか。

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KPIとKGI:目的地と、そこへ至る道のり

KPI設計の話を始める前に、よく似た言葉である「KGI」との関係を整理しておきましょう。これは、ビジネスという旅における「目的地」と「道のり」の関係によく似ています。

KGI(Key Goal Indicator)は、あなたのビジネスが最終的にたどり着きたい「目的地」です。「年間売上10億円達成」や「利益率20%改善」といった、最終的なゴールそのものを指します。これは、いわば旅の目的地である「宝島」のようなものです。

一方のKPI(Key Performance Indicator)は、その宝島へたどり着くための具体的な「道のり」や「チェックポイント」です。目的地に着くために、コンパスはどの方角を指すべきか、どの島を経由すべきか、日々の航海で何を指標とすべきか。それがKPIの役割です。「ウェブサイトからの月間問い合わせ数100件」「新規顧客の平均購入単価5,000円」といった、KGI達成のプロセスを測るための中間指標がこれにあたります。

重要なのは、すべてのKPIは、最終目的地であるKGIに繋がっていなければならない、ということです。KGIという山頂を目指しているのに、まったく別の方角にある丘への登りやすさを測っても意味がないのです。

なぜ、多くのKPI設計は機能しないのか? 私が経験した4つの「罠」

立派なKPIを作ったはずなのに、いつの間にか誰も見なくなり、形骸化してしまう。これは、多くの企業で繰り返されてきた光景です。私自身も、過去にはたくさんの失敗を経験してきました。ここでは、皆さんが同じ轍を踏まないよう、特に陥りがちな4つの「罠」について、私の恥ずかしい失敗談と共にお話しします。

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罠1:指標が多すぎる「総花的なKPI」

「あれも大事、これも大事」と、考えられる指標をすべてKPI 設定してしまうケースです。かつてあるクライアントで、20以上ものKPIを設定してしまったことがありました。結果は惨憺たるもので、担当者は日々の報告資料作りに追われ、どの数字を改善すればゴールに近づくのかが誰にも分からなくなってしまいました。結局、重要な問いかけが、無数の数字のノイズに埋もれてしまったのです。KPIは、多ければ良いというものでは決してありません。

罠2:現場が理解できない「専門家よがりなKPI」

これはアナリストとしての私の、苦い失敗の一つです。あるサイトで、私はユーザーの重要なページ遷移だけを可視化する「マイルストーン分析」という独自の手法を開発し、それをKPIとして提案しました。分析手法としては画期的だと自負していましたが、クライアントの担当者以外のメンバーにはそのデータの価値が全く伝わらなかったのです。「この難しい指標を、どうアクションに繋げれば…?」と。どんなに高度な分析も、それを見て行動する「人」が理解できなければ無価値です。誰がその数字を見るのか、その人のリテラシーはどのくらいか。そこまで想像することが不可欠でした。

罠3:目標と無関係な「自己満足のKPI」

これは、KGIとの繋がりが曖昧なKPIを設定してしまう罠です。例えば、最終目標が「利益の最大化」であるにもかかわらず、現場のKPIが「サイトのPV数」だけになっているような状況です。もちろんPV数も無関係ではありませんが、広告費をかければ簡単に増やすこともできます。赤字を垂れ流してPVを稼いでも、本来の目標である利益はむしろ減ってしまいます。これでは、ただ数字を追いかけるだけのゲームになってしまいます。

罠4:現実的でない「絵に描いた餅のKPI」

「理想的には正しい」提案が、必ずしも良い提案とは限りません。以前、非常に固い社風のクライアントに対し、その事情を無視してコストのかかる大規模なシステム改修を前提としたKPIを提案し続けたことがあります。当然、提案はほとんど実行されませんでした。KPIは、計測可能で、かつ改善アクションが実行可能でなければ意味がありません。 組織の文化、予算、メンバーのスキルといった「現実」を無視したKPIは、ただの絵に描いた餅に終わってしまいます。

成果を生むKPI設計、3つのステップ

では、機能するKPIはどのように設計すれば良いのでしょうか。それは料理のレシピ作りに似ています。最高の料理(ビジネスの成功)を作るためには、まず「何を作りたいか」を決め、次に「必要な材料」を洗い出し、最後に「具体的な調理手順」に落とし込んでいくのです。

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Step 1: ビジネスの「最終ゴール」を定める(KGIの明確化)

まず、あなたのビジネスが「何を達成したいのか」を、たった一つ、明確な言葉で定義します。単に「売上を増やす」ではありません。「半年後に、主力商品のリピート購入率を10%向上させる」といったように、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性(Relevant)、期限(Time-bound)のある、いわゆる「SMART」な目標を設定することが理想です。

しかし、ここで私が最も重要視するのは、その目標の裏にある「なぜ?」を掘り下げることです。なぜリピート率を上げたいのか? それはLTV(顧客生涯価値)を高め、安定した事業基盤を築きたいからではないか?――このように、表面的な数字だけでなく、ビジネスとしての「ありたい姿」からゴールを見つめることが、ブレない軸を作る上で非常に重要です。

Step 2: ゴールまでの「ユーザーの物語」を分解する

ゴールが決まったら、次にお客様がそのゴールに至るまでの「物語(カスタマージャーニー)」を考えます。例えば「リピート購入」というゴールであれば、お客様は商品を認知し、興味を持ち、初回購入し、商品に満足し、そして再購入を検討するという一連の行動を辿るはずです。

この各段階で、お客様の「心」が動く瞬間はどこか、私たちはどんな働きかけができるかを考え、それを計測するための指標候補を洗い出していきます。例えば、「興味」段階なら「特定記事の読了率」、「満足」段階なら「商品レビューの投稿数や評価点」などが考えられるでしょう。

Step 3: 「次の一手」に繋がる指標に絞り込む(KPIの決定)

最後に、洗い出した指標候補の中から、「これが増えたり減ったりしたら、すぐ次の一手を考えられる」という、アクションに直結する指標だけをKPIとして選び抜きます。ここで先の失敗例を思い出してください。指標は多すぎず、誰もが理解でき、現実的に改善できるものでなければなりません。

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例えば、ECサイトの売上(KGI)を向上させるためのKPIツリーは以下のようになります。

  • KGI: 売上

そして、例えば「コンバージョン率」をさらに分解し、「カート投入率」や「購入フォームの離脱率」を追いかける、といったように階層構造で考えると、どこにボトルネックがあるのかが非常に分かりやすくなります。

KPIを「育てる」という視点

KPIは一度作ったら終わり、というものではありません。市場や顧客は常に変化します。だからこそ、作ったKPIが正しく機能しているかを常に見守り、時には見直す、「育てる」という視点が欠かせません。ここでは、KPIを育て、成果に繋げ続けるためのヒントを3つ、私の成功体験からご紹介します。

ヒント1:簡単な施策ほど、価値がある

アナリストは、つい見栄えのする複雑な改善案を考えがちです。しかし、本当に効果的なのは、驚くほど地味な施策だったりします。あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率が、どんなにバナーデザインを変えても低いままでした。そこで私が提案したのは、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上しました。常に「最も早く、安く、簡単に実行できて、効果が大きい施策は何か?」と自問する姿勢が、KPI改善の近道です。

ヒント2:検証の「問い」は、大胆かつシンプルに

KPI改善のためにABテストを行う際、よくあるのが「ボタンの色を少し変える」といった、差が小さすぎる検証です。これでは有意な差が出にくく、結局「よく分からなかった」で終わってしまいます。ABテストの目的は、次に進むべき道を明確にすること。そのためには、迷いを断ち切る「大胆でシンプルな問い」を立てることが重要です。「写真中心の訴求 vs テキスト中心の訴求」のように、固定観念に囚われず、思い切った差で検証することで、ユーザーが本当に求めているものが見えてきます。

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ヒント3:データが語り始めるのを「待つ」誠実さ

これは、私にとって最大の教訓の一つです。新しい計測設定を入れた直後、期待の大きいクライアントから矢のような催促を受け、焦って不十分なデータで提案をしてしまったことがあります。翌月、データが蓄積されると全く違う傾向が見え、前月の提案が誤りだったことが判明。クライアントの信頼を大きく損ないました。データアナリストは、時に「待つ勇気」が必要です。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。その誠実さこそが、最終的に正しい判断と信頼に繋がると、私は信じています。

あなたのビジネスの「次の一歩」のために

ここまで、KPI設計の本質から具体的なステップ、そして育てるための視点までお話ししてきました。KPI設計は、あなたのビジネスの課題を浮き彫りにし、チームの力を結集させ、成長への確かな一歩を踏み出すための、強力な武器になります。

もし、この記事を読んで「まず、何から始めればいいのだろう?」と感じたら、ぜひ「あなたのビジネスの最終ゴール(KGI)は何か?」を、たった一つだけ紙に書き出してみてください。そして次に、「そのゴールを達成するために、お客様はどんな気持ちで、どんな行動を取るだろうか?」と想像してみてください。それが、あなただけのKPI設計の始まりです。

もちろん、このプロセスは簡単ではありません。自社のビジネスを客観的に見つめ、無数にある選択肢から進むべき道を見つけ出すのは、大海原でたった一人、羅針盤を頼りに航海するようなものです。もし、その海図作りに迷ったり、専門家の視点が必要だと感じたりしたときは、いつでも私たちにご相談ください。

私たち株式会社サードパーティートラストは、20年にわたるウェブ解析の経験を活かし、あなたのビジネスという船に最適な羅針盤を一緒に作り上げる「伴走者」でありたいと考えています。データというお客様の声に耳を澄ませ、あなたのビジネスを成功へと導くお手伝いをいたします。

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KPI設計に関するご相談は、下記よりお気軽にお問い合わせください。あなたのビジネスの、新たな航海の始まりを、心から応援しています。

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