目標 設定で事業は変わるか?― 20年間のWeb解析で見えた「絵に描いた餅」で終わらせない思考法

「今期の目標は、売上120%アップだ!」

会議室に威勢のいい号令が響き渡るものの、現場は「…で、具体的に何をすれば?」と途方に暮れている。そんな光景、あなたの会社でも見覚えはありませんか?目標は立てるけれど、いつの間にか形骸化し、日々の業務に追われて忘れ去られてしまう。これは、多くの企業が抱える根深い課題です。

こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私は20年間、EC、メディア、BtoBと、様々な業界でウェブ解析に携わり、数々の事業の立て直しをご支援してきました。その中で痛感してきたのは、優れた目標設定こそが、ビジネスを加速させる最強のエンジンである、という事実です。

しかし、ただ数字を掲げるだけでは意味がありません。私たちの信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」ということ。この記事では、単なる目標設定のテクニックではなく、データの裏側にあるユーザーの“心”を読み解き、ビジネスそのものを改善するための、実践的な思考法と具体的なステップをお伝えします。あなたのビジネスの「羅針盤」を、一緒に作り上げていきましょう。

なぜ、あなたの目標は「絵に描いた餅」で終わってしまうのか?

そもそも、なぜ私たちは目標を設定するのでしょうか。それは、進むべき方向を定め、チームの力を一つのベクトルに合わせるためです。目標設定とは、単なるノルマ管理ではありません。それは、ビジネスという船が、どこへ向かうべきかを決める「航海図」そのものなのです。

ハワイの風景

しかし、多くの現場で、その航海図は活用されずに眠っています。なぜなら、最終目的地である「KGI(Key Goal Indicator:重要目標 達成指標)」と、そこへ至る道筋を示す「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」が、正しく繋がっていないからです。

「売上を上げる」というKGIは立派でも、それを達成するためのKPIが「とにかくアクセス数を増やす」では、羅針盤が壊れているのと同じです。質の低いアクセスばかり集めても、売上には繋がりません。それどころか、広告費を無駄にし、現場を疲弊させるだけでしょう。

私たちが目指すのは、数値の改善ではありません。その先にある「ビジネスの改善」です。そのために、まずは航海図を正しく描くことから始めなくてはなりません。

ビジネスを動かす「目標設定」5つのステップ

では、具体的にどうすれば「絵に描いた餅」で終わらない、生きた目標設定ができるのでしょうか。私が20年の実践で辿り着いた、5つのステップをご紹介します。これは登山に似ています。いきなり山頂を目指すのではなく、一歩一歩、着実にルートを確認しながら進むことが成功の鍵です。

ステップ1:【現在地の確認】データから“ユーザーの声”を聴く

登山を始める前には、まず自分の現在地と装備を確認しますよね。ビジネスも同じです。Google Analyticsなどのツールを開き、アクセス数やCVRといった数字を眺めるだけでは不十分です。

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大切なのは、その数字の裏で、ユーザーが何を感じ、なぜその行動を取ったのかを想像すること。「このページの直帰率が高いのは、ユーザーが期待した情報と違ったからかもしれない」「カートで離脱が多いのは、入力項目が多すぎて面倒に感じたからではないか?」

このように、数字を「ユーザーの心の声」として翻訳することから、すべての分析は始まります。表面的なデータに惑わされず、ビジネスの真の課題はどこにあるのか、仮説を立てていきましょう。

ステップ2:【目的地の設定】SMART原則に“魂”を吹き込む

現在地が分かったら、次に目指す山頂(目標)を決めます。ここで役立つのが、有名な「SMART原則」です。

  • Specific:具体的で
  • Measurable:測定可能で
  • Achievable:達成可能で
  • Relevant:関連性があり
  • Time-bound:期限が明確な

例えば「3ヶ月で、オーガニック検索からの問い合わせ件数を1.5倍にする」といった形です。しかし、これはあくまで目標の「骨格」に過ぎません。

特に重要なのが「Achievable(達成可能)」の解釈です。かつて私は、クライアントの事情を無視し、「理想的に正しいから」とコストのかかるシステム改修を提案し続け、結果的に何も実行されなかった苦い経験があります。目標は、チームの士気を高めるものであって、やる気を削ぐものであってはならないのです。現実的なリソースや体制を踏まえた上で、少し挑戦的なくらいの目標を設定することが、魂を吹き込むコツです。

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ステップ3:【ルートの設計】KGIから逆算してKPIツリーを作る

山頂(KGI)が決まれば、そこへ至る登山ルート(KPI)を設計します。ここで多くの人が陥るのが、KGIと無関係なKPI 設定してしまう罠です。

例えばKGIが「問い合わせ件数1.5倍」なら、KPIは何になるでしょうか?それは「問い合わせフォームへのアクセス数」や「フォーム入力完了率」かもしれません。さらにその手前には「関連ブログ記事からの送客数」や「各記事の読了率」といった指標があるはずです。

このように、KGIを頂点に、それを構成する要素を分解していくと、「KPIツリー」が出来上がります。このツリーがあれば、日々の活動が最終目標にどう貢献しているかが一目瞭然になり、チーム全員が同じ地図を持って登山に臨めるようになります。

かつて私は、担当者以外には難解な分析レポートを提出し、自己満足に陥ってしまったことがあります。データは、それを見る人が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれます。誰が、何のためにその数字を見るのかを常に意識することが重要です。

ステップ4:【計画の立案】「待つ勇気」と「測る覚悟」を持つ

ルートが決まったら、具体的な行動計画を立てます。しかし、ここで焦りは禁物です。特に新しい計測設定などを導入した直後は、データが安定するまで時間が必要です。

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過去に私は、データ蓄積が不十分と知りつつ、クライアントを急かすあまり不正確なデータで提案を行い、信頼を大きく損なったことがあります。データアナリストは、不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ「待つ勇気」を持たなければなりません。正しい判断のためには、適切な量のデータが不可欠なのです。

そして、「何を」「どのように」「いつまで」測るのかを事前に定義する「測る覚悟」も必要です。施策を実行する前に、その成否を判断する基準を決めておくことで、「やりっぱなし」を防ぎ、着実な改善サイクルへと繋がります。

ステップ5:【改善と前進】PDCAより「大胆な仮説検証」を

「大胆かつシンプルな仮説検証」を推奨しています。

多くのABテストは、ボタンの色を変えるといった些細な変更に終始し、結局「よく分からなかった」で終わりがちです。そうではなく、「比較要素は一つに絞り」「固定観念に囚われず、差は大胆に設ける」のです。

例えば、バナーのデザインを微調整するのではなく、「派手なバナー」と「ただのテキストリンク」を比較してみる。かつてあるメディアサイトで、この検証を行った結果、地味なテキストリンクの方が、遷移率が15倍に向上した事例があります。ユーザーは綺麗なデザインではなく、自分に必要な情報を求めていたのです。小さな改善を恐れず、しかし時には大胆な検証で、停滞を打ち破る勇気が道を開きます。

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目標達成を阻む「3つの壁」とその乗り越え方

ここまでのステップを踏んでも、なお目標達成が難しい場合があります。それは組織に潜む「壁」が原因かもしれません。

第一の壁:目標が「お題目」になっている
経営層が掲げた目標が、現場の実感と乖離しているケースです。これを防ぐには、KPIツリーを使って、会社の目標と自分の業務がどう繋がっているのかを可視化することが有効です。

第二の壁:指標が「機能」していない
KPIをただ眺めているだけで、誰もアクションを起こさない状態です。週次や月次でKPIのレビュー会議を設け、「なぜこの数字になったのか」「次は何をすべきか」を議論する場を仕組みとして定着させることが重要です。

第三の壁:組織的な「抵抗」がある
サイトの根本的な課題が、特定の部署が管轄する領域にある場合などです。かつて私も、組織間の壁を前に提案を躊躇し、本質的な改善が1年も遅れてしまった失敗があります。アナリストとして、顧客に忖度しすぎるのは失格です。ビジネスを前に進めるために「避けては通れない課題」については、データという客観的な事実を武器に、粘り強く伝え続ける覚悟が必要です。

明日からできる、目標達成への「最初の一歩」

ここまで、目標設定に関する私の考えと実践的なステップをお伝えしてきました。多くの知識やノウハウに触れ、頭がいっぱいかもしれません。しかし、最も重要なのは、今日、この記事を読んだあなたが「最初の一歩」を踏み出すことです。

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難しく考える必要はありません。まずは、あなたのサイトのGoogle Analyticsを開き、「行動」メニューの中にある「行動フロー」レポートを見てみてください。そこには、ユーザーがどのページから来て、どこで迷い、どこで諦めて去っていったのか、その生々しい足跡が記録されています。

その複雑な線の一つひとつが、ユーザーの無言の叫びです。その声に耳を澄ませば、あなたのビジネスが次に何をすべきか、そのヒントがきっと見つかるはずです。

もし、その声の解読に迷ったり、どこから手をつければ良いか分からなくなったりした時は、いつでも私たちにご相談ください。私たちは、単にデータを分析するだけではありません。あなたのビジネスの航海図を一緒に描き、目標達成という目的地まで伴走する、頼れるガイドでありたいと願っています。

あなたのビジネスを、次のステージへ。その挑戦を、私たちが全力でサポートします。まずはお気軽にお問い合わせフォームから、あなたの現状をお聞かせください。

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