カスタマージャーニー設計とは?Web解析のプロが20年の経験で悟った「本質」と実践法
「最近、マーケティング施策の効果がどうも頭打ちだ…」「顧客の気持ちが分からず、良かれと思った施策が空回りしている気がする…」
もしあなたが今、そんな霧の中にいるような感覚を抱えているなら、この記事はきっとその霧を晴らすための一助となるはずです。こんにちは、株式会社サードパーティートラストのアナリストです。私はウェブ解析の世界に身を置いて20年、ECサイトから大手メディア、BtoBの領域まで、あらゆる業界でデータと向き合い、数々の事業の立て直しに奔走してきました。
めまぐるしく変わるWebマーケティングの世界で、新しい手法やツールに振り回されそうになる気持ちは、私も痛いほど分かります。しかし、20年間変わらなかった本質が一つだけあります。それは、顧客という「人」を深く理解し、その人の視点に立って戦略を描くこと。そして、そのための最も強力な羅針盤こそが「カスタマージャーニー設計」なのです。
この記事では、小手先のテクニックではなく、ビジネスそのものを動かすためのカスタマージャーニー設計について、私の経験から得た知見を余すところなくお伝えします。机上の空論で終わらせない、明日からあなたの仕事に活かせる実践的な思考法をお届けします。さあ、一緒に顧客を理解する旅に出かけましょう。
そもそもカスタマージャーニーとは?単なる「地図作り」で終わらせないために
「カスタマージャーニー設計」という言葉は、あなたも一度は耳にしたことがあるかもしれません。多くの場合、「顧客が商品を知り、購入に至るまでの道のりを可視化した地図」と説明されます。もちろん、その通りです。しかし、私が20年間、数々の企業のデータと向き合ってきて痛感するのは、多くの地図が、描かれただけで活用されずに終わっているという現実です。

なぜ、そうなってしまうのでしょうか。それは、ジャーニーを「顧客行動の記録」としてしか捉えていないからです。私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というもの。アクセスログの1行1行は、単なる数字の羅列ではありません。その裏側には、期待、迷い、不安、確信といった、生身の人間の感情が渦巻いています。
優れたカスタマージャーニー設計とは、単に行動をなぞるのではなく、その時々の顧客の「内心」を読み解き、ストーリーとして語ること。その地図を片手に、「なぜお客様はここで立ち止まってしまったのか?」「どんな言葉をかければ、次の一歩を踏み出せたのだろう?」と、顧客の心に寄り添う。そこまで踏み込んで初めて、ジャーニーマップはビジネスを動かすための強力な武器になるのです。
なぜ「地図」が必要なのか?ビジネスを動かす3つのメリット
「顧客視点が大事なのは分かるが、具体的にどんな良いことがあるのか?」そう思われるかもしれませんね。カスタマージャーニーという地図を手に入れることで、あなたのビジネスは確実に変わります。ここでは、私が現場で実感してきた3つの大きなメリットをお伝えします。
1. 関係者全員が「同じ景色」を見られるようになる
マーケティング、営業、開発、カスタマーサポート…多くの企業では、部署ごとに顧客像がバラバラ、ということが少なくありません。これでは、まるで船頭がそれぞれ違う方向を向いて船を漕いでいるようなもの。施策もちぐはぐになり、顧客を混乱させてしまいます。
カスタマージャーニーマップは、組織内の共通言語として機能します。「今、我々がアプローチすべきなのは、この段階でこんな悩みを抱えているお客様だ」という認識を、全員で共有できる。これにより、部署間の連携がスムーズになり、一貫性のある顧客体験を提供できるようになるのです。

2. 施策の「なぜ」が明確になり、精度が上がる
「なんとなく流行っているから」で始めた施策が、空振りに終わった経験はありませんか?地図があれば、「どの地点にいる顧客に」「どんな目的で」「何を届けるのか」が明確になります。例えば、「認知段階のお客様には、まず悩みに共感するコンテンツを」「比較検討段階のお客様には、他社との違いを明確にするデータを」といったように、すべての施策に明確な根拠が生まれるのです。これは、無駄なコストを削減し、投資対効果を最大化することに直結します。
3. ビジネスの「根本的な課題」が見えてくる
Webサイトのボタンの色や配置を変えるといった「使い勝手」の改善で向上するコンバージョン率は、実は数%程度であることがほとんどです。しかし、カスタマージャーニーを深く読み解くと、「そもそも、この商品コンセプトがお客様のニーズとズレているのでは?」といった、より根本的な課題が見えてくることがあります。
かつてあるクライアントで、サイト改善に行き詰まった際、ジャーニー分析とサイト内アンケートを組み合わせたところ、多くのユーザーが「価格」ではなく「アフターサポートの不安」で購入をためらっていることが判明しました。私たちはサイト改善の提案だけでなく、サポート体制の強化と、その内容を伝えるコンテンツの作成を提案。結果、ビジネスモデルの根幹に手を入れることで、コンバージョン率は飛躍的に向上しました。数値の改善ではなく、ビジネスの改善を目的とする。これこそが、カスタマージャーニー設計の真の価値なのです。
データに基づいたカスタマージャーニー設計の実践ステップ
では、具体的にどうやってジャーニーマップを作成していくのか。ここでは、私がいつもクライアントと行っている、データに基づいた実践的なステップをご紹介します。これは料理のレシピのようなもの。手順通りに進めることで、誰でも再現性の高い分析が可能になります。
ステップ1:ゴール設定 ― どこを目指す登山なのか?
まず最初に、このジャーニー設計で「何を達成したいのか」を明確にします。いきなり地図を描き始めるのは禁物です。これは、どの山に登るのかを決めずに登山を始めるようなもの。必ず遭難します。

「売上を上げる」といった漠然とした目標ではなく、「半年後に、新規顧客のLTV(顧客生涯価値)を15%向上させる」「初回購入から2回目の購入までの期間を平均1ヶ月短縮する」など、具体的で、測定可能な目標(KGI/KPI)を定めましょう。このゴールが、今後のすべての判断基準となります。
ステップ2:ペルソナ定義 ― 顧客は「誰」なのか?
次に、旅の主人公である「顧客(ペルソナ)」を具体的に定義します。年齢や性別といったデモグラ情報だけでは不十分です。その人は、普段どんな情報をどこから得ていて、どんなことに悩み、何を大切にしているのか。まるで、一人の友人のことを語るように、人物像を鮮明に描きましょう。
ここで重要なのは、憶測でペルソナを作らないこと。Googleアナリティクスのようなアクセスデータはもちろん、顧客アンケート、営業担当者へのヒアリング、そして可能であれば実際の顧客インタビューなど、定量・定性の両面からリアルな情報を集めます。私たちが開発したサイト内アンケートツールも、こうした「顧客の内心」を捉えるために生まれました。行動データだけでは見えない「なぜ?」を明らかにすることが、的確なペルソナ作りには不可欠です。
ステップ3:タッチポイントと行動の洗い出し ― 顧客との接点はどこか?
ペルソナが、あなたの商品やサービスを知ってから購入に至るまでに、どのような接点(タッチポイント)を通過するのかを洗い出します。SNS広告、検索エンジン、比較サイト、口コミ、実店舗、メルマガ、カスタマーサポート…。考えうるすべての接点をリストアップします。
そして、各タッチポイントで顧客が「具体的にどんな行動をとるか」を書き出していきます。この時、あなたの会社の視点ではなく、徹底して顧客の視点に立つことが重要です。「資料請求する」ではなく、「他社と比較するために、いくつかのサイトから資料を取り寄せる」といったように、顧客の目的や背景まで想像を巡らせます。

ステップ4:感情と思考の可視化 ― 地図に「心」を吹き込む
ここがジャーニーマップの心臓部です。ステップ3で洗い出した各行動の裏で、顧客が「何を考え、どう感じているか」を可視化していきます。
「この広告、ちょっと気になるな(期待)」「専門用語が多くてよく分からない…(不安)」「この事例は、まさに自分のことだ!(共感)」「本当にこの選択で合っているだろうか…(迷い)」。こうした感情の起伏を捉えることで、顧客がどこで喜び、どこでつまずいているのか、いわゆる「ボトルネック」と「好機」が明確に見えてきます。
この作業は、関係者で集まってワークショップ形式で行うのがおすすめです。様々な視点から意見を出し合うことで、より解像度の高い感情曲線が描けるはずです。
ステップ5:課題の特定と施策の立案 ― 次の一手を決める
完成したジャーニーマップを俯瞰し、特に感情がネガティブに振れている箇所や、行動が止まってしまっている箇所に注目します。そこが、あなたのビジネスが改善すべき課題です。
課題が見つかったら、それを解決するための具体的な施策を考えます。この時、私が常に意識しているのは「できるだけコストが低く、改善幅が大きいものから優先的に実行する」という原則です。大規模なサイトリニューアルよりも、キャッチコピーの変更や、分かりやすい説明を一行追加するテキストリンクの方が、劇的な効果を生むことも少なくありません。かつてあるメディアサイトで、バナーのデザインをいくら変えても上がらなかった遷移率が、記事の文脈に合わせた自然なテキストリンクに変えただけで15倍になったこともあります。簡単な施策ほど正義、なのです。

よくある失敗から学ぶ ― その地図、眠っていませんか?
意気込んでカスタマージャーニーマップを作ったものの、いつの間にか誰も見なくなり、壁の飾りになってしまう…。これは、本当によくある悲しい光景です。なぜそうなってしまうのか、私が目撃してきた典型的な失敗例を2つご紹介します。ぜひ、他山の石としてください。
失敗例1:社内事情に「忖度」した、歪められた地図
分析の結果、コンバージョンにおける最大のボトルネックが「申し込みフォームの使いにくさ」だと明確になったとします。しかし、そのフォームの管轄が別の部署で、変更には手間がかかる…。そんな時、「波風を立てたくない」という気持ちから、その根本的な課題に蓋をして、他の些末な改善案でお茶を濁してしまう。これは、アナリストとして絶対にしてはならないことです。
かつて私も、短期的な関係性を優先して言うべきことを言えず、結果的にクライアントの機会損失を長引かせてしまった苦い経験があります。顧客の現実から目を背けた地図に価値はありません。たとえ組織的な抵抗が予想されても、「避けては通れない課題」については、データを根拠に粘り強く伝え続ける。その覚悟が、アナリストには求められます。
失敗例2:「作って満足」で更新されない、古い地図
カスタマージャーニーは、一度作ったら終わりではありません。市場環境や競合の動き、そして何より顧客自身の価値観も日々変化しています。半年前の地図が、今も正しいとは限らないのです。
定期的にデータを分析し、顧客の声に耳を傾け、地図を常に最新の状態にアップデートしていく

さあ、あなたの「最初の一歩」を踏み出そう
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。カスタマージャーニー設計の重要性と、その実践的なアプローチについて、ご理解いただけたのではないでしょうか。
「何から手をつければ…」と迷うかもしれません。でも、大丈夫です。壮大な地図をいきなり完成させる必要はありません。明日からできることは、驚くほどシンプルです。
まず、あなたのビジネスにおける最も大きな課題を一つ、紙に書き出してみてください。「新規顧客が定着しない」「特定の商品の売上が伸び悩んでいる」など、何でも構いません。そして、その課題に関わる顧客は「誰で、どんな行動をしているのか」を、Googleアナリティクスなどの手元のデータを見ながら想像してみる。それが、あなたのカスタマージャーニー設計における、記念すべき第一歩です。
もちろん、この旅は簡単ではありません。データの海で道に迷ったり、社内の壁にぶつかったりすることもあるでしょう。もし、自社だけでの分析に限界を感じたり、より深く、ビジネスの根幹から課題解決に取り組みたいとお考えでしたら、ぜひ一度、私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。
私たちは、単に地図を描く代行業者ではありません。あなたの会社のチームの一員として、データから顧客の心を読み解き、ビジネスの未来を共に描くパートナーでありたいと考えています。あなたのビジネスを、私たちと一緒に次のステージへ進めましょう。ご連絡を心よりお待ちしております。
