「業務効率化」という言葉に、もう惑わされない。ビジネスを本質から変える“言い換え”の技術
「業務効率化、進んでいますか?」
会議で、あるいは上司との面談で、この言葉を耳にするたびに、胸が少しだけ重くなる…そんな経験はありませんか?マーケティング担当者として、来る日も来る日もレポート作成に追われ、本当に向き合うべき戦略 立案が後回しになっている。経営者として、コスト削減のプレッシャーを感じながらも、どこから手をつければいいのか決めかねている。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私は20年間、ECサイトからBtoB、メディアまで、様々な業界でデータと向き合い、数々の事業課題を解決してきました。その長い経験の中で痛感しているのは、多くの企業で「業務効率化」が、目的を見失った“掛け声”になってしまっているという現実です。
実は、その問題の本質は、「業務効率化」という言葉の曖昧さにあります。この記事では、単なる類語や言い換えのリストを提示することはしません。私が20年間、データ分析の現場で培ってきた経験から、「業務効率化」という漠然とした言葉を、「ビジネスを成長させるための具体的なアクション」に翻訳し、あなたのビジネスを劇的に変えるための思考法と、その実践ツールとしてのGoogle Apps Script(GAS)の活用法をお伝えします。
なぜ「業務効率化」という言葉だけでは、前に進めないのか?
なぜ、あれほど叫ばれているにもかかわらず、多くの「業務効率化」は期待したほどの成果を生まないのでしょうか。それは、この言葉が「手段」であるにもかかわらず、いつの間にか「目的」そのものになってしまうからです。

私が常々、お客様にお伝えしている信条があります。それは「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」というものです。アクセス数を増やすこと、作業時間を短縮すること、それ自体はゴールではありません。その先にある「売上向上」や「顧客満足度の向上」といった、ビジネス本来の目的を達成して初めて意味を持ちます。
「業務効率化」も全く同じです。効率化の先に、どんな景色を見たいのか。その目的地が曖昧なままでは、まるで山頂の場所を知らずに登山を始めるようなもの。どんなに高機能な装備(ツール)を持っていても、ただ闇雲に歩き回るだけでは道に迷い、疲弊してしまうだけなのです。
だからこそ、私たちはまず、この曖昧な言葉を「言い換える」ことから始める必要があります。それは言葉遊びではなく、自分たちの進むべき方角を定め、目的地を明確にするための、最も重要なプロセスなのです。
「言い換え」は、目的を再定義するコンパスである
では、具体的にどう「言い換える」のか。私は、業務効率化がもたらす価値を、大きく3つの軸で捉えることをお勧めしています。それは「時間創出」「コスト削減」「人的ミスの削減」です。
一見、当たり前に聞こえるかもしれません。しかし重要なのは、これらの言葉を「自社のビジネスゴール」と結びつけて考えることです。

- 「時間創出」:生み出した時間で、何を実現したいですか? 新規事業の企画ですか? それとも、もっとお客様と向き合う時間を増やすことでしょうか?
- 「コスト削減」:削減したコストを、どこに再投資しますか? 新しいマーケティング施策ですか? それとも、社員の待遇改善でしょうか?
- 「人的ミスの削減」:ミスが減ることで、どんな価値が生まれますか? 顧客からの信頼向上ですか? それとも、従業員の精神的な負担軽減による、創造性の向上でしょうか?
例えば、営業部門であれば「顧客との対話時間を創出する」、マーケティング部門なら「データ入力ミスを削減し、分析精度を向上させる」、経理部門なら「請求書処理のコストを削減し、その予算を新たなIT投資に回す」といった具合です。
どうでしょうか。「業務効率化を進めよう」と言われるより、「お客様と向き合う時間を、週に5時間創出しよう」と言われた方が、ずっと具体的で、チームの誰もが「自分ごと」として捉えられるはずです。この「言い換え」こそが、あなたのチームが進むべき道を示す、強力なコンパスとなるのです。
羅針盤を手にした後の「航海術」としてのGAS
進むべき方角、つまり「目的」が定まったら、次はいよいよ「手段」である航海術の話です。ここで登場するのが、Google Apps Script(GAS)です。
GASは、GoogleスプレッドシートやGmail、Googleカレンダーといった、あなたが普段使っているツールを自動化できる、非常に強力なプログラミング言語です。しかし、これもまた、目的がなければただの道具に過ぎません。
例えば、先ほどの「お客様と向き合う時間を週5時間創出する」という目的(言い換え)を達成するために、GASは以下のような航海術として機能します。

- 毎日1時間かかっていた日報作成を、Googleフォームと連携して5分で自動生成する(時間創出)
- 広告レポートのデータを、スプレッドシートに毎日自動で集計する(時間創出 + 人的ミス削減)
- 特定のキーワードを含む問い合わせメールに、一次回答を自動返信する(時間創出 + 顧客満足度向上)
ここで忘れてはならないのが、「簡単な施策ほど正義」という私のもう一つの価値観です。かつて、あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率が低いという課題がありました。どんなにリッチなバナーをABテストしても、結果は芳しくありませんでした。
そこで私が見栄えを捨てて提案したのは、記事の文脈に合わせた、ごく自然な「テキストリンク」への変更でした。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上しました。派手なツールやデザインだけが解決策ではありません。時には、こうした地味で簡単な施策こそが、最大の効果を生むのです。GASを使えば、こうした「小さくても効果的な改善」を、驚くほど低コストで実現できるのです。
多くの船が沈む「落とし穴」:私が経験した失敗から学ぶ
しかし、GASという強力な航海術も、使い方を誤れば座礁します。私も過去に、数々の失敗を経験してきました。その苦い経験から得た教訓を、あなたにはぜひ知っておいてほしいと思います。
一つは、「最高の道具が、最高の成果を生むとは限らない」という教訓です。以前、私はクライアントのために、重要なページ遷移だけを可視化する画期的な分析手法を開発しました。自分では最高のものができたと自負していました。しかし、導入先の担当者以外のデータリテラシーが低く、結局そのデータの価値を社内で説明できず、宝の持ち腐れとなってしまいました。
この経験から、私は「誰が、何のために使うのか」という視点なくして、ツール導入は成功しないと痛感しました。GASを導入する前に、「その自動化は、本当に現場のメンバーが求めているものか?」を問う必要があります。

もう一つは、「理想の正論だけでは、船は1ミリも動かない」という現実です。あるクライアントのサイトでは、コンバージョンフォームが明らかにボトルネックでした。しかし、その管轄は別部署。組織的な抵抗を恐れた私は、その根本的な課題への提案を避けてしまいました。結果、1年経っても本質的な改善はなされず、大きな機会損失を生んでしまいました。
自動化や効率化は、既存の業務プロセスや組織の壁にぶつかることが少なくありません。相手の現実を深く理解し、共に歩める最初の一歩を提案する。そして、避けては通れない課題については、粘り強く伝え続ける。このバランス感覚こそが、ビジネスを動かすのだと学びました。
成功への航路図:明日からできる「業務効率化」の第一歩
では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。「まずはGASの勉強から…」と考えるのは、少しお待ちください。もっと大切な、誰にでもできる第一歩があります。
Step1: 「名もなきタスク」の棚卸し
まず、あなたやあなたのチームで、毎日・毎週繰り返されている「地味だけど時間を奪われている作業」を3つ、紙に書き出してみてください。「〇〇さんへの報告用データのコピペ」「週次の定例報告資料の作成」「問い合わせ内容のスプレッドシートへの転記」…。こうした「名もなきタスク」こそが、宝の地図の最初のヒントです。
Step2: 「価値軸」との紐付け
次に、書き出した3つのタスクが、先ほどの「時間創出」「コスト削減」「人的ミスの削減」という3つの価値軸のどれに最も貢献するかを考えてみましょう。そして、それがどんなビジネスゴールに繋がるのかを想像してみてください。これが、あなたのコンパスの針を合わせる作業です。

Step3: スモールスタートで「勝ち筋」を見つける
最後に、最も簡単で効果が大きそうなものから一つだけ選び、改善に着手します。完璧な自動化を目指す必要はありません。例えば、「10の工程のうち、2つだけでもGASで自動化できないか?」と考えてみる。私の信条である「ABテストは大胆かつシンプルに」という考え方と同じで、まずは手作業の一部を肩代わりさせるだけでも、劇的な変化が生まれ、次の改善への大きなモチベーションになります。
あなたのビジネスの「航海士」として
ここまで、「業務効率化」という言葉を解きほぐし、ビジネスを本質から変えるための思考法についてお話ししてきました。コンパス(目的の再定義)を持ち、航海術(GAS)を学び、航路図(実行ステップ)を描く。これが、成功への道筋です。
しかし、いざ自分の船で航海に出ようとすると、「どのタスクから手をつけるべきか」「自社の場合はどんなGASが有効なのか」など、新たな問いが生まれてくるかもしれません。もし、あなたが羅針盤の向きや、最初の航路に迷っているなら、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。
株式会社サードパーティートラストは、ツールを売る会社ではありません。私たちが提供するのは、15年以上にわたるデータ分析の知見と、数々の失敗と成功から得た実践的なノウハウです。私たちは、データという信頼できる羅針盤を使い、あなたのビジネスという船を、目的地まで安全に導く「航海士」でありたいと考えています。
あなたのビジネスの現状をヒアリングし、最適な航路をご提案します。まずはお気軽にお声がけください。あなたの挑戦を、私たちが全力でサポートします。
