セグメント 分析」は公会計でどう活かす?データから住民の"声"を聴く、はじめの一歩

こんにちは。株式会社サードパーティートラストのアナリストです。私は20年以上にわたり、ウェブ解析の現場で様々な企業のビジネス改善に携わってきました。

民間企業では当たり前のように使われる「顧客」。しかし、これが「公会計」の分野となると、「一体どう活用すればいいのか?」「そもそも利益を追求しない行政サービスに必要なのか?」といった疑問の声を耳にすることが少なくありません。

もしあなたが、膨大な行政データを前にして、住民サービスの向上や業務効率化の糸口を探しているのなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。なぜなら、私たちが15年間、一貫して信じてきた「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学は、公会計の世界でこそ、その真価を発揮すると確信しているからです。

この記事では、単なる分析手法の解説に留まりません。私が現場で経験してきた成功や失敗のストーリーを交えながら、セグメントいう「レンズ」を通して、データから住民一人ひとりの「声なき声」を聴き、具体的なアクションに繋げるための思考法をお伝えします。

セグメント分析とは「人の暮らしを想像する」技術

セグメント分析とは、一体何でしょうか。マーケティングの教科書を開けば「顧客を共通の属性や行動でグループ分けする手法」と書かれているかもしれません。しかし、私はこれを「地図作り」に似ていると考えています。

ハワイの風景

ただ闇雲に航海するのではなく、顧客という広大な海原を「若い世代が多い新興住宅地」「高齢者が多い歴史ある地域」といったように、特徴の似た島々(セグメント)に分けて地図を描く。そうすることで、どの島にどんな物資(サービス)を届けるべきか、どんな航路(アプローチ)が最適かが見えてきます。

これは公会計の世界でも全く同じです。住民という多様な人々を、単なる「納税者」「サービス利用者」という大きな括りで見るのではなく、その背景にある暮らしやニーズでグループ分けする。例えば、「子育てと仕事に忙しい30代ファミリー層」「地域活動に積極的なアクティブシニア層」「ひとり暮らしの学生層」など、具体的な顔が見えるグループに分けることで、初めて血の通った政策立案が可能になります。

数字の羅列を眺めるだけでは、何も生まれません。その数字の向こう側にいる「人」の暮らしを想像し、その喜びや困りごとに寄り添うこと。それが、私たちの考えるセグメンテーションの原点なのです。

なぜ今、公会計にセグメント分析が必要なのか?

「限られた予算を、いかに公平に、そして効果的に配分するか」これは、公会計における永遠のテーマでしょう。この難題を解く鍵こそが、セグメント分析です。

かつて私が関わったある自治体では、医療費の増大が深刻な課題でした。当初は市全体のデータを見て「健康診断の受診率を上げよう」という漠然とした対策しか立てられませんでした。しかし、データを年齢や地域でセグメント分析したところ、特定のエリアに住む40代男性の生活習慣病リスクが突出して高いことが判明したのです。

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この「発見」に基づき、私たちは対策を大きく転換しました。市全体の広報ではなく、そのエリアの事業所と連携した健康相談会の実施や、地域のスーパーと協力した健康弁当のキャンペーンなどを提案。結果、対象セグメントの特定健診受診率は目に見えて向上し、将来的な医療費の抑制に繋がる確かな一歩を刻むことができました。

このように、セグメント分析は、限られた予算や人員という資源を、まるでピンポイントで狙いを定めるように、最もインパクトの大きい場所へ集中させるための知恵なのです。勘や経験則だけに頼るのではなく、データという客観的な根拠に基づいて意思決定を行う。これにより、政策の透明性と説明責任も格段に向上します。

公会計で使える、具体的なセグメント分析手法

では、具体的にどのような手法があるのでしょうか。ここでは、民間企業で広く使われ、公会計にも応用可能な代表的な分析手法を、私たちの実践的な視点から解説します。

行動・属性データに基づく基本的な分類

最も基本的なのは、住民の「属性」と「行動」で分ける方法です。

  • 属性データ:年齢、性別、居住地域、世帯構成など、住民基本台帳に基づくデータです。
  • 行動データ:公共施設の利用履歴、特定健診の受診状況、ごみ分別アプリの利用率、市のウェブサイトの閲覧履歴など、住民の具体的なアクションを示すデータです。

多くの担当者が陥りがちなのは、属性データだけで「分かった気」になってしまうことです。しかし、本当に重要なのは、属性と行動を掛け合わせ、住民の「ニーズ」や「関心事」を浮き彫りにすることです。「都心部に住む20代単身者」という属性だけでは不十分で、「その中で、市のイベントに頻繁に参加している層」まで深掘りすることで、初めて有効なアプローチが見えてくるのです。

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RFM分析を行政サービスに応用する

RFM分析は、元々ECサイトなどで優良顧客を見つけるために使われる手法です。

  • Recency:最近いつサービスを利用したか
  • Frequency:どれくらいの頻度で利用しているか
  • Monetary:(公会計では)納税額や施設利用料など

これを公会計に応用してみましょう。例えば、図書館の利用データでRFM分析を行えば、「最近も頻繁に利用している優良利用者」「以前はよく利用していたが最近ご無沙汰な“休眠”利用者」「一度しか利用したことのない新規利用者」といったセグメントが明確になります。

この結果に基づき、「休眠利用者には、オンライン蔵書検索や電子書籍サービスの案内メールを送る」といった、セグメントごとに最適化されたコミュニケーションが可能になります。

クラスター分析で「隠れた住民ニーズ」を発見する

クラスター分析は、様々なデータを統合し、AIが自動的に似た者同士のグループ(クラスター)を発見してくれる手法です。これは、私たちがまだ気づいていない、潜在的な住民ニーズの塊を見つけ出すのに非常に有効です。

例えば、様々なアンケートデータや行動データを投入することで、「健康志向は高いが、運動施設は利用しないアウトドア派シニア」「デジタルツールを使いこなす移住促進関心層」といった、従来の縦割り行政では見えなかった、新しい住民の姿が浮かび上がってくるかもしれません。こうした発見が、新たなサービス開発や部局横断の連携プロジェクトに繋がるのです。

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分析の前に立ちはだかる「壁」と、その乗り越え方

セグメント分析は強力なツールですが、その導入にはいくつかの「壁」が伴います。しかし、その壁の本質を知り、正しく向き合えば、必ず乗り越えることができます。

失敗例1:目的が曖昧なまま「分析のための分析」に陥る

「何か新しいことができそうだ」という漠然とした期待だけで分析を始めると、ほぼ間違いなく失敗します。精緻なセグメント分けができたとしても、それが「で、結局何をすればいいの?」という状態に陥ってしまうのです。

【対策】
分析を始める前に、「誰の、どんな課題を解決したいのか」という目的を徹底的に具体化してください。「住民満足度の向上」といった大きな目標ではなく、「高齢者向けデマンドバスの利用率を半年で10%上げる」といった、測定可能で具体的なゴールを設定することが不可欠です。ゴールが明確であれば、見るべきデータも、選ぶべき分析手法も、自ずと定まってきます。

失敗例2:データの壁に阻まれ、前に進めない

公会計データは、各部署でバラバラに管理されている「サイロ化」が起きがちです。また、個人情報保護の観点から、データの利用に高いハードルがあるのも事実です。

【対策】
最初から完璧なデータ連携を目指す必要はありません。まずはあなたの部署が持っている、一番身近なデータから始めてみましょう。そして、小さな成功事例を作ることです。「この分析で、これだけ業務が効率化できた」という実績が、他部署を動かし、データ連携の輪を広げていく何よりの説得材料になります。

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失敗例3:分析結果が誰にも「伝わらない」

これは私自身の苦い経験です。かつて、画期的な分析手法を開発したものの、そのレポートが専門的すぎたため、クライアントの担当者以外にその価値が全く伝わらず、宝の持ち腐れになってしまったことがありました。

【対策】
データは、それ自体に価値があるわけではありません。受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれます。特に、首長や議員、そして住民といった多様なステークホルダーに説明する場面では、専門用語を並べた分厚いレポートは無力です。複雑な分析結果を、誰もが一目で理解できる「一枚の絵」や「短いストーリー」に要約する。その「翻訳」の技術こそ、アナリストの腕の見せ所だと考えています。

時には、言うべきことを言えない「忖度」が、正しい判断を曇らせることもあります。しかし、相手の組織文化やリテラシーを無視した「正論」もまた、無価値です。相手の現実に深く寄り添いながら、しかしデータが示す「避けては通れない課題」は伝え続ける。このバランス感覚が、データを行動に変える上で最も重要です。

私たちが描く、データドリブンな行政の未来

私たちサードパーティートラストは、ウェブ解析の知見を活かし、サイト内の行動に応じてアンケートを出し分けるツールを自社開発した経験があります。これは、行動データ(定量)だけでは見えない「なぜ?」という理由(定性)を知るためでした。

この哲学は、公会計の世界でも同じです。各種統計データや利用履歴といった「行動の記録」と、住民アンケートやパブリックコメントといった「生の声」。この二つを掛け合わせることで、住民理解の解像度は飛躍的に高まります。

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AIや機械学習の進化は、この流れをさらに加速させるでしょう。将来のインフラ需要を予測したり、支援が必要な世帯を早期に発見したりと、可能性は無限に広がります。しかし、忘れてはならないのは、AIはあくまで優秀なアシスタントであり、最終的な判断は「人」が下すということです。データから住民の内心を読み解き、より良い社会のために何ができるかを考える。その温かい眼差しこそが、これからのデータ活用には不可欠です。

明日からできる、はじめの一歩

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。セグメント分析という、少し専門的なテーマでしたが、その本質が「データを通して人を見つめる」という、非常に人間的な営みであることが伝わっていれば幸いです。

「何から手をつければいいか分からない…」そう感じるかもしれません。でしたら、明日、まずはあなたの部署で管理している一番身近なデータを、改めてじっくりと眺めてみてください。それは、図書館の貸出履歴かもしれませんし、公園の利用者アンケートかもしれません。あるいは、粗大ごみの申請内容かもしれません。

「このデータを使っているのは、どんな人だろう?」「どんなグループに分けられそうか?」そんな問いを立ててみることが、全ての始まりです。その小さな気づきの積み重ねが、やがてあなたの組織を、そして住民の暮らしを、より良い方向へと導く大きな力になります。

もし、その過程で専門的な支援が必要になったり、第三者の客観的な視点が欲しくなったりした時は、いつでも私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。私たちは、データから住民一人ひとりの「声なき声」を聴き、より良い社会を創るお手伝いをしたいと本気で考えています。
あなたの挑戦を、心から応援しています。

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