SNS分析から「成果」を生む改善へ。データに隠された顧客の心を読み解く方法
「SNSの分析、毎日数字は見ているけれど、そこから何をどうすればいいのか分からない…」
「レポートは作っているものの、結局『いいね』の数に一喜一憂するだけで、次のアクションに繋がらない」
もし、あなたがそう感じているなら、それは当然のことかもしれません。多くの企業がSNS分析に取り組んでいますが、そのほとんどが「数値を眺めるだけ」で終わってしまっているのが実情です。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでWEBアナリストを務めております。20年間、ECサイトからBtoB、メディアまで、様々な業界でデータと向き合い、数々の事業の立て直しをお手伝いしてきました。
私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条があります。それは、「データは、人の内心が可視化されたものである」ということ。SNSの数字は、単なる記号の羅列ではありません。その一つひとつの裏には、画面の向こうにいるユーザーの「嬉しい」「知りたい」「共感する」といった生々しい感情が隠されています。
この記事では、単なるツールの使い方や指標の説明に終始するつもりはありません。私が20年の現場で培ってきた経験に基づき、SNSのデータからユーザーの心を読み解き、ビジネスを本質的に改善するための具体的な考え方とステップを、あなたに直接語りかけるようにお伝えします。この記事を読み終える頃には、SNS分析が「作業」から「対話」へと変わるはずです。

SNS分析の本当の目的とは?― 数値を追うのではなく、物語を読む
まず、最も大切なことからお話しします。SNS分析の目的は、インプレッションやエンゲージメント率といった「数値を改善すること」ではありません。本当の目的は、「データを通じて顧客を深く理解し、ビジネスを改善すること」です。
これを私たちはよく登山に例えます。ビジネス全体のゴール(売上向上など)が「山頂(KGI)」だとすれば、SNSにおける目標は、山頂へ至るルート上にある「チェックポイント(KPI)」です。例えば、「ブランド認知度の向上」や「見込み顧客の獲得」などがそれにあたります。
多くの担当者が陥りがちなのは、目の前のチェックポイントばかりに気を取られ、山頂を見失ってしまうことです。エンゲージメント率が上がっても、それがビジネスに貢献していなければ意味がありません。大切なのは、一つひとつの指標が、最終的なビジネスゴールという物語の中で、どんな役割を果たしているのかを常に意識することです。
データは、その物語を読み解くための「手がかり」に他なりません。どの投稿でユーザーの足が止まり、どの言葉に心が動き、どんなきっかけで次の行動に移ったのか。私たちは、その足跡を辿り、顧客のインサイト(内心)という宝物を探し出す探検家なのです。
成果に繋がるSNS分析の具体的なステップ
では、具体的にどのように分析を進めれば、ビジネス改善という「山頂」にたどり着けるのでしょうか。闇雲にデータを集めても、遭難するだけです。正しい地図とコンパスを持って、一歩ずつ進んでいきましょう。

Step 1:目的とKPIの再設定 ― 「誰に、何を伝えたいか」
最初のステップは、目的の明確化です。しかし、ただ「認知度向上」といった目標を立てるだけでは不十分です。私が必ずクライアントにお尋ねするのは、「そのデータは、最終的に誰が見て、何を判断するために使うのですか?」ということです。
以前、非常に高度な分析手法を導入したものの、現場の担当者の方々がその価値を理解できず、全く活用されなかったという苦い経験があります。レポートは、自己満足のために作るものではありません。経営層が見るのか、現場の担当者が見るのかによって、示すべき指標も、その見せ方も全く変わってきます。受け手が理解し、行動に移せて初めて、データは価値を持つのです。
Step 2:データ収集と可視化 ― 「待つ勇気」を持つ
目的が定まったら、必要なデータを集めます。各SNSのインサイト機能や外部ツールを使いますが、ここで重要なのは「焦らないこと」です。
特に新しい施策を始めた直後は、クライアントからも、そして自分自身の期待からも「早く結果が知りたい」というプレッシャーがかかります。しかし、蓄積が不十分なデータは、時に私たちを大きく惑わせます。かつて、データが足りないまま焦って提案した内容が、翌月には全く逆の結果となり、クライアントの信頼を失いかけたことがありました。それは一時的なTVCMの影響による「異常値」だったのです。
不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには、時に「待つ勇気」が不可欠です。集めたデータは、Looker Studioなどのツールで、誰が見ても分かるようにシンプルに可視化しましょう。

Step 3:分析とインサイトの発掘 ― 「なぜ?」を5回繰り返す
レポートが完成したら、いよいよ分析です。ここで大切なのは、単に「Aの投稿はBの投稿より反応が良かった」で終わらせないこと。トヨタ生産方式で有名な「なぜなぜ分析」のように、「なぜ、その差が生まれたのか?」を徹底的に掘り下げます。
「なぜAは反応が良かった? → 写真が良かったから」
「なぜ写真が良かった? → 人物が写っていたから」
「なぜ人物写真が良かった? → 親近感が湧いたから」
「なぜ親近感が湧いた? → ユーザーが自分事として捉えられたから」
ここまで掘り下げて初めて、「私たちのターゲットは、商品のスペックよりも『共感』や『自分ごと化』できるストーリーを求めているのかもしれない」という仮説(インサイト)が生まれます。この仮説こそが、次の改善策の種となるのです。
Step 4:改善策の立案と実行 ― 「大胆かつシンプル」に
インサイトが見つかったら、それを基に改善策を考えます。ここで私が信条としているのは、「できるだけコストが低く、改善幅が大きいものから優先的に実行する」ということです。
リッチな動画や大掛かりなキャンペーンも良いですが、まずはキャッチコピーの変更や、写真の差し替えなど、すぐに試せることから始めましょう。以前、どんなにバナーデザインを改善しても遷移率が上がらなかったメディアサイトで、文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」に変えただけで、遷移率が15倍になったことがあります。「簡単な施策ほど正義」なのです。

また、施策をABテストで検証する際は、「比較要素は一つに絞る」「差は大胆に設ける」というルールを徹底します。中途半端なテストは、時間とリソースの無駄遣いになるだけ。迷いを断ち切る「大胆でシンプルな問い」を立てることが、次に進むべき道を最も早く照らしてくれます。
SNS分析から導く、具体的な改善施策の3つの視点
分析から得たインサイトを、具体的なアクションに落とし込むための3つの視点をご紹介します。これらは独立しているのではなく、互いに深く関連し合っています。
1. エンゲージメント向上:「共感」の輪を広げる
エンゲージメントの本質は「共感」です。一方的な情報発信ではなく、ユーザーが「私のことだ」と感じるコンテンツを届けられているかどうかが鍵となります。
そのためには、行動データだけでは不十分です。私たちは、サイト内の行動に応じてアンケートを出し分ける自社ツールを開発し、「なぜこの商品に興味を持ったのですか?」「どんなことに困っていますか?」といったユーザーの「内心」を直接聞くことで、定量データと掛け合わせ、コンテンツ戦略の精度を飛躍的に高めてきました。ユーザーの悩みに寄り添い、解決策を提示する。その真摯な姿勢が、結果的に最も強いエンゲージメントを生むのです。
2. リーチ最大化:「届けるべき人」に届ける
どれだけ良いコンテンツを作っても、届かなければ意味がありません。リーチを最大化するには、プラットフォームのアルゴリズムを理解し、ターゲットが最もアクティブな時間を狙って投稿することが基本です。

しかし、そこで思考を止めてはいけません。例えば、広告を配信する際も、ただ広く配信するのではなく、「エンゲージメントの高いユーザー層」や「サイト訪問者」に類似したオーディエンスに絞り込むことで、費用対効果を劇的に改善できます。データ分析は、最適な「届け方」を見つけるための強力な武器になるのです。
3. コンバージョン 向上:「最後の一押し」を設計する
SNS経由のコンバージョンを高めるには、明確なCTA(行動喚起)と、スムーズなランディングページ(LP)が不可欠です。しかし、見落とされがちなのが、SNSとLPの「文脈の一貫性」です。
例えば、「お得なキャンペーン」に惹かれてクリックしたのに、LPにその情報が分かりやすく書かれていなければ、ユーザーは一瞬で離脱します。SNSの投稿でユーザーの心に灯した期待の火を、LPで消してしまってはいけません。SNSからLPまで、ユーザーの感情が途切れないよう、一貫したストーリーを設計することが重要です。ここでも、どの投稿から来たユーザーが最もコンバージョンしているかを分析することが、改善のヒントになります。
分析を避けることのリスク ― 「言いにくいこと」を言う勇気
SNS分析と改善を怠ることは、羅針盤なしで航海を続けるようなもの。時間と労力をかけて投稿を続けても、それが的外れな努力であれば、機会損失は膨らむばかりです。
しかし、それ以上に深刻なリスクがあります。それは、「ビジネスの根本的な課題」から目を背けてしまうことです。

かつて、あるクライアントサイトで、明らかにコンバージョンフォームに問題がありました。しかし、その管轄が他部署であったため、短期的な関係性を優先し、その指摘を避けてしまったことがあります。結果、1年経っても数値は改善せず、ビジネスは停滞したままでした。
アナリストの仕事は、耳障りの良い報告をすることではありません。たとえ言いにくいことであっても、データが示す「避けては通れない課題」については、断固として伝え続ける。もちろん、相手の組織文化や予算を無視した「正論の押し付け」も無価値です。顧客の現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描き、しかし本質的な課題からは逃げない。このバランス感覚と誠実さこそが、アナリストの真の価値だと私は信じています。
明日からできる、最初の一歩
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。SNS分析の奥深さと、その可能性を感じていただけたでしょうか。
もし、何から手をつければいいか迷っているなら、まずはたった一つ、「この3ヶ月で、最もエンゲージメントが高かった投稿」と「最も低かった投稿」を3つずつ見比べてみてください。
そして、その差がどこにあるのか、「なぜ?」を繰り返しながら考えてみましょう。使われている言葉ですか? 写真の雰囲気ですか? 問いかけの仕方ですか? そこにはきっと、あなたの顧客の「内心」に繋がる、貴重なヒントが隠されているはずです。

その小さな気づきを積み重ね、仮説を立て、試してみる。そのサイクルこそが、SNS分析を「改善」へと繋げる、確かな一歩となります。
もし、データの中から顧客の物語を読み解くことに難しさを感じたり、ビジネスを動かすための具体的な戦略について壁にぶつかったりした際には、いつでも私たちにご相談ください。あなたのビジネスに眠る可能性を、データという光で照らし出すお手伝いができることを、心から楽しみにしています。