データ分析のプロが語る、顧客理解の「本」質と実践
「データは山ほどあるのに、お客様の顔がまったく見えてこない」
「会議で『顧客視点』という言葉が飛び交うけれど、具体的に何をすればいいのか分からない」
もしあなたが今、このような壁に突き当たっているのなら、それは決してあなただけの悩みではありません。ウェブ解析の現場に20年間立ち続け、数えきれないほどの企業のデータと向き合ってきた私自身、何度も同じような課題に直面してきました。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私たちの信条は、創業以来15年間、一貫して変わりません。それは「データは、人の内心が可視化されたものである」ということです。数字の羅列の向こう側には、必ず生身の人間の喜び、迷い、そして期待が隠されています。
この記事では、小手先のテクニックや流行りのバズワードを解説するつもりはありません。私が20年のキャリアを通じて辿り着いた、顧客理解の「本」質と、それをビジネスの確かな成長に繋げるための具体的なアプローチについて、私の経験を交えながら、誠心誠意お話しします。この記事を読み終える頃には、あなたの「顧客理解」に対する解像度が格段に上がり、明日から踏み出すべき一歩が明確になっているはずです。
顧客理解とは「数字の裏にある物語」を読むこと
多くの企業が「顧客理解」の第一歩として、Google アナリティクスなどのアクセス解析ツールを導入します。しかし、そこで表示されるPV数、セッション時間、直帰率といった指標を、ただの数字として眺めているだけでは、何も始まりません。

例えば、あるページの直帰率が90%だったとしましょう。多くの人は「このページは人気がない」と結論付けてしまいます。しかし、私たちはそう考えません。その90%という数字は、「期待してページを開いたものの、欲しい情報が見つからなかった」「次に何をすれば良いか分からず、途方に暮れてしまった」という、9割のユーザーの“声なき声”なのです。
逆に、滞在時間が非常に長いページがあったとします。それは「コンテンツが魅力的で熟読されている」のかもしれませんし、「情報が複雑で、理解するのに時間がかかっている」だけかもしれません。どちらの物語が正しいのか。それを解き明かすヒントは、他のデータとの組み合わせや、その後のユーザー 行動の中に隠されています。
真の顧客理解とは、このように一つひとつの数字の裏にあるユーザーの感情や行動を想像し、複数のデータを繋ぎ合わせて一つの物語として読み解く力に他なりません。それは、まるで探偵が現場に残された痕跡から事件の真相に迫るような、知的好奇心をくすぐるプロセスでもあるのです。
なぜ今、顧客理解がビジネスの明暗を分けるのか?
「良いモノを作れば売れる」という時代は、とうの昔に終わりました。情報が溢れ、あらゆる選択肢が民主化された現代において、顧客は「何を買うか」だけでなく「誰から、どんな想いが込められたものを買うか」を、無意識のうちに選んでいます。
このような時代に、企業が顧客から選ばれ続けるために不可欠なのが、表面的なニーズだけでなく、その奥にある価値観やライフスタイルまでをも深く理解し、共感することです。顧客を深く知ることは、ビジネスのあらゆる側面に劇的な効果をもたらします。

私がかつて担当したあるメディアサイトでは、記事からサービスサイトへの遷移率が、どんなにリッチなバナーを設置しても一向に改善しない、という課題がありました。しかし、私たちは見た目の派手さではなく、ユーザーの文脈に寄り添うことを選びました。そして提案したのは、記事の流れに合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更です。結果、遷移率は0.1%から1.5%へ、実に15倍に向上しました。
この事例が示すのは、ユーザーは広告やデザインを見に来ているのではなく、「自分にとって価値ある情報」を探しに来ているという単純な事実です。顧客の置かれた状況や心理を深く理解すれば、最小限のコストで、最大限の効果を生む施策を見つけ出すことができるのです。これこそが、顧客理解がもたらす大きなメリットの一つです。
LLMは「顧客の内心」を読み解く新たな羅針盤
「数字の裏にある物語を読む」と言っても、その解釈が独りよがりになっては意味がありません。そこで重要になるのが、お客様の「生の声」、つまり定性的なデータです。
私たちは以前から、行動データ(定量)だけでは埋められない「なぜ?」の溝を埋めるため、サイト内の行動履歴に応じて質問を出し分けるアンケートツールを自社開発するなど、定性データの収集と活用に力を入れてきました。アンケートの自由回答欄やレビュー、問い合わせログには、顧客の「内心」に迫るヒントが詰まっています。
そして近年、この定性データ分析の世界に革命をもたらしたのが、LLM(大規模言語モデル)です。LLMは、私たちが長年追い求めてきた膨大な「お客様の声」という宝の山を、驚くべき精度とスピードで整理し、分析してくれる最高の相棒と言えます。

例えば、ECサイトに寄せられた数千件のレビューをLLMに分析させれば、「デザインは好評だが、特定の機能に対する不満が多い」「ポジティブな意見は30代女性に集中している」といった傾向を瞬時に可視化できます。これは、これまでアナリストが何日もかけて行っていた作業です。
ただし、忘れてはならないのは、LLMはあくまで優秀なアシスタントだということです。最終的にその分析結果から何を発見し、どうビジネスに活かすのかを決めるのは、人間の役割です。私たちは、LLMという新たな羅針盤を手に、顧客理解という大海原の、さらに奥深くへと航海を進めることができるようになったのです。
成果に繋がるデータ分析、その確かなステップ
顧客理解をビジネス成果に繋げる分析は、やみくもに進めても結果は出ません。それはまるで、目的地も決めずに山に登り始めるようなものです。私たちが20年間、様々な現場で実践してきた、確かな成果に繋がる分析のステップをご紹介します。
Step 1:目的地の設定(目的の明確化)
まず最初に、「何のために分析するのか」を明確にします。「売上を10%向上させる」「解約率を5%改善する」など、ビジネスのゴール(KGI)を定め、そのために追うべき指標(KPI)を具体的に設定します。ここが曖昧だと、分析そのものが目的化してしまいます。
Step 2:地図とコンパスの準備(データ収集・整理)
目的地が決まったら、そこへ至るための地図、つまりデータを準備します。アクセスログ、購買データ、顧客アンケート、サポートへの問い合わせ履歴など、社内に点在するデータを集め、いつでも使えるように整理します。データの質と鮮度が、分析の精度を大きく左右します。

Step 3:ルートの探索(分析・仮説構築)
いよいよ分析です。ツールを駆使してデータを様々な角度から眺め、「なぜこの数字になっているのか?」という問いを繰り返しながら、課題の原因や改善のヒントとなる仮説を立てます。この「問いを立てる力」こそが、アナリストの腕の見せ所です。
Step 4:最初の一歩を踏み出す(施策実行・検証)
仮説に基づいた改善策を実行し、その結果を再びデータで検証します。この時、大切なのは完璧を目指さないこと。「最もコストが低く、効果が大きい」と考えられる施策から、小さく試してみるのです。このサイクルを回し続けることで、ビジネスは着実に山頂へと近づいていきます。
そして何より重要なのは、これらの分析結果を「誰に、どう伝えるか」です。私自身、かつて画期的な分析手法を開発したものの、お客様のデータリテラシーに合わず、宝の持ち腐れになった苦い経験があります。どんなに優れた分析も、受け手が理解し、行動に移せなければ価値は生まれないのです。
私が経験から学んだ、顧客理解の「3つの落とし穴」
顧客理解への道は、常に順風満帆とは限りません。むしろ、そこには数多くの「落とし穴」が潜んでいます。ここでは、私自身が過去に陥った失敗から得た、3つの重要な教訓をお伝えします。あなたの旅が、道に迷うことのないように。
落とし穴1:「忖度」という名の思考停止
あるクライアントサイトで、コンバージョンフォームに明らかな課題がありました。しかし、その管轄が他部署で、組織的な抵抗が予想されたため、私は短期的な関係性を優先し、その根本的な指摘を避けてしまいました。結果、1年経っても本質的な改善はなされず、機会損失が続きました。顧客に忖度し、言うべきことを言わないのは、アナリスト失格です。

落とし穴2:「焦り」が生むデータの誤読
新しい計測設定を導入した直後、期待値の高いお客様からデータ活用を急かされたことがありました。営業的なプレッシャーもあり、私はデータ蓄積が不十分と知りつつ、不正確なデータで提案をしてしまいました。翌月、正しいデータを見ると全く違う傾向が見え、私の提案が誤りだったことが判明。お客様の信頼を大きく損ないました。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには「待つ勇気」が不可欠です。
落とし穴3:「べき論」と「現実」の乖離
年単位の予算で動く、非常に固い社風のクライアントに対し、私は「理想的に正しいから」という理由で、コストのかかる大規模なシステム改修を提案し続けました。当然、提案はほとんど実行されませんでした。相手の組織文化や予算を無視した「正論」は無価値です。実現可能なロードマップを描く現実的な視点が求められます。
これらの失敗は、今でも私の胸に深く刻まれています。データと向き合うことは、常に自分自身の誠実さや胆力が試されることでもあるのです。
あなたのビジネスを変える「明日からできる最初の一歩」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。顧客理解の重要性と、その奥深さを感じていただけたのではないでしょうか。
「もっと深く学びたい」と考え、顧客理解に関する本を手に取るのも素晴らしいことです。書店には、マーケティングやデータ分析、行動経済学など、多くの良書が並んでいます。しかし、最も大切なのは知識を詰め込むことではありません。その本から得た “たった1つの新しい視点” を持って、改めて自社のデータやお客様の声を見つめ直してみることです。

もし、あなたが明日から顧客理解の旅を始めるなら、まずはこんなことから試してみてはいかがでしょうか。
最初の一歩①:最も離脱されているページを5分間、見つめてみる
Google アナリティクスを開き、あなたのサイトで最も離脱率の高いページを1つだけ見つけてください。そして、お客様になったつもりでそのページを眺め、「なぜ、自分はここを去るのだろう?」と問いかけてみてください。答えは出なくても構いません。その問いを持つことが、全ての始まりです。
最初の一歩②:お客様の「声」を10件だけ読んでみる
カスタマーサポートに寄せられた問い合わせや、ECサイトのレビューに、直近1ヶ月で10件だけ目を通してみてください。そこに、あなたがこれまで気づかなかった製品改善のヒントや、感謝の言葉に隠された新たな価値提案の可能性が眠っているかもしれません。
顧客理解とは、壮大なプロジェクトである前に、こうした日々の小さな「気づき」の積み重ねです。しかし、もしデータから物語を読み解くのが難しい、あるいは何から手をつければ良いか分からないと感じたら、それは専門家の力を借りるサインかもしれません。
私たち株式会社サードパーティートラストは、あなたの会社のデータと真摯に向き合い、その裏にある物語を読み解き、ビジネスを次なるステージへと導くお手伝いをします。もしご興味があれば、まずはお気軽にご相談ください。あなたの会社の顧客理解という、終わりなき冒険の、信頼できるパートナーとなれることを願っています。
